ミツバチ図鑑
天然エアコンの巣箱
現在採蜜に使われている蜜蜂はセイヨウミツバチという明治時代に伝えられたいわば外来種です。
日本には古来からニホンミツバチという種類がいますが、
神経質な蜂のため、巣箱を開ける等の行為がストレスになりすぐに棲家を変えてしまいます。
その為、養蜂としては向かないため、性格のおとなしいセイヨウミツバチが養蜂用に広く使われてきました。
社会生活型の蜜蜂の起源はもともとは熱帯地方とされているので、比較的熱には強いのですが、
集団生活のため巣箱の温度が高いのと、あまりに暑いと巣板が柔らかくなったりするので
彼女たちはさまざまな方法で巣箱の温度を一定に保とうとします。
温度が上昇してくると、まず巣箱の蜂の密度を少なくするために密集を避けて、
巣板の中心に集まっていた働き蜂は外側の巣板へと移動します。
採蜜蜂の帰還で混み合うときは「内勤蜂」は巣の外に出て密度が上がらないようにします。
さらに温度が上がると、羽ばたきで扇風機のように風を送り巣箱の空気の入れ替えを行います。
それでも足りない場合は、働き蜂は外から水を吸ってきて巣箱に撒かれます。
それを羽ばたきによって気化熱として奪い、巣箱の温度を下げる工夫を行います。
逆に寒い時期はどうでしょう。
蜂自体の呼気がある程度温度を持っているので、密集することで
羽毛の間に空気の部屋を作り、温度を逃がさないようにします。
ちょうど、人間が息で暖をとるような行為に似ています。
さらに寒くなると、より一層密集して内側の働き蜂は飛翔筋を震わせてエネルギーを放出します。
寒いと体が震える、これも人間の行為と似ていますね。
冬の間は夏に貯めておいた蜂蜜を餌にして寒さを凌ぎます。
養蜂では冬の間は巣箱を部屋の中に入れて温度を高くしてやります。
蜜蜂の持つ熱エネルギーは相当なもので、ニホンミツバチはオオスズメバチなどの外敵の襲来にあったとき、
スズメバチを大群で取り囲み、中心の温度を50℃近くまで上げて熱で殺してしまいます。蜂球と呼ばれます。
ダンスで教える蜜のありか
蜜蜂がダンスで蜜のありかを教えることは、ご存知の方も多いかもしれません。
フォン・フリッシュという博士が発見し、ノーベル賞を受賞しました。
100メートル以内の近い餌場の場合は円ダンス、それ以上の遠い場合は8の字ダンスと言うのが一般的です。
ダンスの時間が餌場までの距離、巣板の真上を太陽の方向として交差部分の傾きで方向を伝えています。
暗い巣箱の中で視覚によって情報を得ているのではなく、
羽音の間隔によって距離の情報を得ているのではないかとも言われています。
採取蜂には二種類の係がいます。餌場を偵察する「探索係」、彼女らのダンスを元に移動する「運搬係」です。
探索係は蜜源を求めて飛び回り、情報を「内勤」の蜂に伝えますが、
この時より糖度の高い蜜を持ち帰った蜂ほど優先されます。
そして彼女らの情報を元に、運搬係が飛び立つというシステムになっています。
蜜の糖度が薄い探索蜂は随分と待たされることになります。
待たされた探索蜂は位置情報を忘れてしまうのか、ダンスをしなくなります
これにより、情報が整理されもっとも甘い蜜のもとへ効率よく、運搬係を送ることが出来るのです。
またミツバチダンスは水場の位置や新しい営巣場所を教えるのにも使われます。
暖簾分け。分蜂の儀式
初夏、新しい女王蜂が王台の中で蛹から成虫に変わろうとする時期、巣別れの儀式が行われます。
古い女王蜂が巣の中の働き蜂の半分を引き連れて他の営倉に向かって旅立っていく様は壮観です。
分蜂する蜂たちは蜜房からたっぷりとお腹に蜜をため、何万という蜂がいっせいに出て行きます。
次の営巣場所が決まっているわけではないので取り敢えず、木の枝などに蜂球を作って一時的に休みます。
探索蜂がふさわしい営巣地を求めて四方へ偵察に行ってきます。
帰ってきた探索蜂は蜂球の上でダンスをして候補地を教えます。
探索蜂たちの意見がまとまるのは数時間から長いと数日かかることもあります。
声の大きいものが会議で主導権をとると言われますが、探索蜂も元気よく長くダンスをした者の意見が尊重される傾向があるようです。
もし、候補地が決まらない場合、蜂球を作った木の枝がそのまま営巣地になることもあるようです。
熾烈な女の戦い
一方、分蜂で残された巣は、新しい女王を決める骨肉の争いが繰り広げられます。
通常、王台は数個~十数個作られ、その中で新女王の候補が羽化します。
最初に羽化した女王蜂は他の王室の候補者たちを抹殺しにかかります。
王台に穴をあけ、毒針で刺し殺したり、あごでかみ殺したりします。
同時に女王蜂が生まれた場合は取っ組み合いの喧嘩になります。
その闘いはどちらかが死ぬまでの文字通り決闘です。
ただでさえ分蜂で食料が少ない上に、女王蜂が決闘で傷つくこともあり、うまくいかない場合もあるようです。
女王蜂を決めるのは働き蜂の意見が大きいとも言われます。
分蜂で巣別れする元女王蜂が高齢の場合、
働き蜂が古い女王をかみ殺し、分蜂せずにそのまま新しい女王蜂に引き継がれることもあります。
新しい女王蜂が壊した他の王台を働き蜂が修復したり、壊すのをとめたりすることがあります。
万が一に備えて候補の女王蜂を温存するためとも言われます。
蜂の一刺し。命がけの防衛
天敵である大型の蜂や動物から身を守るための唯一の武器が「毒針」です。
スズメバチなど他の蜂と違い、ニホンミツバチやセイヨウミツバチの刺し針には釣り針のような「返し」がついています。
このかえしがあるせいで、一度刺すと刺し針は蜂の体から内臓とともに引きちぎられてしまい、死んでしまいます。
毒腺は引きちぎられた後も毒液を注入し続けます。
そもそも、この刺し針は産卵の為の管が進化して出来たもので、当然オス蜂にはありません。
ミツバチは本来おとなしいもので、スズメバチほどの攻撃性はなく、
巣箱を刺激したりしない限りは攻撃されることはありませんが、
運が悪ければアナフィラキシーショックと呼ばれる、過剰なアレルギー反応によって死に至る場合もあります。
巣箱を見つけても、くれぐれも触ったりしないでくださいね。