ミツバチ図鑑
主食とおかず
ミツバチの主な食料は蜂蜜と花粉です。
ローヤルゼリーはいわば特殊な食料で、働き蜂が作るのに彼らが食べることはありません。
幼虫と女王蜂にしか許されない、いわば宮廷料理のようなものです。
はちみつは炭水化物。人間で言うとご飯やパンのような存在です。また、巣を作る際に蜜蝋の材料となります。
花粉はミツバチにとってはおかずのような存在です。タンパク質、それにビタミンとミネラルが豊富です。
そしてローヤルゼリーは花粉から作られます。
蜂蜜を吸っていると体の毛に花粉が付着します。彼女たちは蜜を吸い終えた後、
吸った花蜜を少量吐き出し、足に生えたブラシ状の毛に湿り気を与えます。
ちょうど人間がブラシで髪をすくようにして体についた花粉を湿らせます。
飛行中、それをまとめる作業に取り掛かります。
前足と中足で花粉をまとめると、後ろ足の体毛がかごのようになった花粉かごへ運びます。
花粉かごの中には一本の長い毛があり、それを串にして花粉団子を刺してゆくのです。
巣に帰ると花粉団子は内勤蜂に渡され、噛み砕かれて巣房に蓄えられます。
最後に蜂蜜を塗られて「蜂パン」と呼ばれる保存食になります。
花粉で作られた「蜜パン」は働き蜂や働き蜂候補の幼虫の栄養源が
最近では人間にとっても健康食品、栄養補助食品として注目されています。
花粉には動脈硬化、便秘、前立腺障害などに効果的と知られているほか、
花粉症の減感作療法としても注目されています。(当園では花粉を販売しておりません)
いずれにしてもプロポリスに次いで今後、注目されるミツバチの贈り物かもしれません。
天然のハチミツ?
ミツバチが集めた花蜜は胃袋である蜜胃で酵素を加えて
花蜜の大部分を占めるショ糖をブドウ糖と果糖に分解します。
ビタミン、ミネラル、アミノ酸を豊富に含む蜂蜜はいったん巣房に蓄えられます。
35度前後の巣温の中で、蓄えられた蜂蜜は徐々に水分を蒸発させていきます。
80%ほどの水分になって時点で採蜜・出荷されるのが
いわゆる「天然蜂蜜」と呼ばれるものですが、定義は曖昧です。
当然、当園で取れる蜂蜜は巣で寝かされ自然に水分を飛ばした蜂蜜です。
しかし効率が悪いので、寝かせの段階を待たずに採蜜し、機械で水分を飛ばせたものが流通していますが、
やはり味は格段に違います。
公正取引規約では水分量が21%以下のものが蜂蜜と決められていますが、
工程までを定義するものではないため、
機械で水分を飛ばしても、巣箱で水分を飛ばしても、規格には変わりない蜂蜜ということになります。
有機酸が含まれているので、蜂蜜のPHは3.8とかなり高いものですが、
甘みが強いので酸味を感じることはありません。
宮廷料理。ローヤルゼリー
女王蜂の主食であるローヤルゼリーも働き蜂によって作られます。
ハチミツと根本的に違うのはローヤルゼリーが花粉から作られる生成物であるということです。
働き蜂は巣房に蓄えられた花粉(蜂パン)を盛んに食べます。
腸に送られた花粉はアミノ酸となり、顎にある唾液腺に送られ生合成が行われます。
上あごと下あごにある唾液腺で分泌された混ざった乳白色のものがローヤルゼリーとなります。
ローヤルゼリーはハチミツと違い、酸味が高く、舌を刺激する収れん性があります。
先にも述べましたがローヤルゼリーは女王候補の幼虫と女王蜂にしか与えられません。
王台と呼ばれる特別室の幼虫にしか与えられないのです。
通常王台は巣板に数個程度しか作られませんので、
ローヤルゼリーを採取しようにもそれはとても少量な物となってしまいます。
それでは市販されているローヤルゼリーはどうやって採取されているのでしょう?
それにはミツバチたちの習性をうまく利用したやり方で採取されるのです。
緊急事態を装う
巣箱の中には通常1匹の女王蜂と数万匹の働き蜂、数千のオス蜂がいることは
先にも述べましたが、たった1匹の女王蜂です。
何が起きるかわかりません。
外敵の襲来や、病気などで死んでしまうこともあります。
そんな時働き蜂は、働き蜂として育てられた幼虫を女王蜂の候補にするのです。
もともと、働き蜂になるか女王蜂になるかは後天的なもので、
ローヤルゼリーを与え続けられるか、途中で花粉に変えられるかの違いと
王台で育てられるか、巣房で育てられるかの2種類の違いだけでしかありません。
つまり、働き蜂の幼虫でも王台の広いスペースとローヤルゼリーがあれば
女王蜂になることができるのです。
女王蜂がいない緊急事態になると
働き蜂は巣房で育てられた幼虫の部屋を王台に作り変えます。
そしてローヤルゼリーを与えます。
ローヤルゼリーに含まれるホルモンで、幼虫は女王蜂としてさなぎとなり
女王蜂として羽化するのです。
余談ですが、女王蜂がいなくなると働き蜂が卵を産むこともあります。
これは本来生殖が可能な働き蜂を、女王蜂が作る卵巣抑制ホルモンが抑えているからで、
それがなくなることで本来のメスの習性が呼び覚まされるためです。
しかし働き蜂は受精していないので、
生まれてくる蜂はオスばかりとなり遠からずその巣は滅んでしまいます。
ローヤルゼリーを大量生産するには上記の緊急事態をうまく利用します。
女王蜂を取り除いた巣箱や女王蜂を隔離した巣板群の巣板に
プラスチックで作った王台のベースを取り付けます。王台の数は40個ほど。
この人工の王台に巣房の働き蜂の幼虫を移します。
働き蜂たちは女王蜂を育てるために王台のベースを蜜蝋で作り直し、
移された幼虫はローヤルゼリーを与えられるのです。
ローヤルゼリーは幼虫の採餌量よりも過剰に与えられることが常なので、
2~3日後幼虫を取り除き、蓄えられたローヤルゼリーを掻き出します。
こうして取り出されたローヤルゼリーはろ過されて冷凍保存されます。
優れた土木建築家
多くのハチの仲間たちはとても見事な6角形の巣を作ります。
この規則正しい六角形の巣はハニカム構造といって
非常に効率的で軽量かつ強靭な構造を持つことから、
飛行機の翼や建築材料などにもこの構造が使われています。
ハニカム構造 六角形の巣房は中心部から下にかけて幼虫の棲家を配し、
温度の管理をしやすくしています。
オス蜂の体は大きいのでオス用の巣房は多少大きくなっています。
外周の上部には花粉でできた蜂パンや蜂蜜を蓄えています。
また巣房は巣板に対して直角ではなく、少し上を向いています。
これは蜜などの貯蔵にさいしてこぼれないようにするためです。
養蜂用の巣板は巣枠と呼ばれ、巣礎という人工的に作られた型が
あらかじめ形作られていてそこをベースに働き蜂たちが巣房を作っていきます。
巣箱は2段、3段と上にに増設することができます。
蜜を効率よく取るため、上段の巣箱には女王蜂が通れないように細い桟を付けておきます。
桟を出入りできるのは体の小さい働き蜂だけですから、上段の巣箱にだけ蜂蜜を貯めることができます。
蜂の巣の原材料はミツバチに体内で生産される蜜ロウと呼ばれる物質で花蜜から作られます。
蜜蝋はおなかの蝋腺と呼ばれる器官で作られ、分泌されたときは液状ですが
空気に触れると固まる性質があります。
働き蜂はお腹から分泌した蜂ロウを足ですくい取り、口まで運び器用に巣作りをします。
巣板の真下には女王蜂候補の幼虫用に王台と呼ばれる円形の部屋が作られます。
最初は小さい王台ですが、幼虫が大きくなるにつれて増築され
最終的には落花生の殻ほどの大きさになります。
ミツバチの巣も人間社会にとって重宝されてきたもののひとつです。
蜜蝋といわれるだけにその原料はロウです。古くからろうそくの原料として使われてきました。
病気から身を守るプロポリス
プロポリスが脚光を浴びるようになったのは最近のことですが、
実は以前から民間療法や防腐剤として多く活用されてきました。
古くは古代エジプト人がミイラの腐敗を防ぐために使われていたこと、
また有名なバイオリン「ストラディバリ」にはニスとして使用されました。
東欧などミツバチ治療が盛んな地域では火傷や化膿、切り傷など
皮膚に関連する薬になったり、リューマチの湿布薬として、
あるいは化粧品としての利用も盛んです。
近年、プロポリス抽出物に含まれるケルセチン、
カフェイン酸フェネチルエステル、テルペン系化合物などの
細胞増殖抑制物質を多く含むことが注目され、科学的解明が待たれています。
薬事法の関係上、プロポリスがどんな病気に効果があると
ここでは書くことが出来ないのが残念ですが、是非調べてみてください。
さてそのプロポリスはミツバチにとってどのような物質なのでしょうか?
pro(プロ=前・正面)とpolis(ポリス=都市)、つまり城壁を意味するこのプロポリスですが
彼女たちは木の若芽や樹皮などからあつめた樹脂(ヤニ)を
花粉を運ぶ時の同じように団子状にして巣に持ち帰ります。
巣枠の桟やふたの裏、出入り口等にこの「蜂ヤニ」と呼ぶこれがプロポリスを塗っていくことで、
巣を固定する接着剤として、 巣の隙間から外敵が侵入するのを防止する「パテ」として、
あるいは出入り口に塗ることで、いわば「足拭きマット」として巣に菌が持ち込まれるのを防ぎます。
ミツバチの外敵としてネズミやカエルも挙げられますが、
これらが巣に侵入し殺してもミツバチは巣の外に運ぶことが出来ません。
そういった時、このプロポリスで塗り固め、腐敗するのを防ぎます。
死骸は漆で塗られたミイラのようになり無菌状態を保たれるのです。
ミツバチの巣はこうした強い抗菌・防腐作用を持つプロポリスのおかげで、
病院のクリーンルームよりも清潔な巣内環境を実現しています。
毒をもって毒を制す
ミツバチの刺し針を使って医療に利用する試みが行われています。
昔から蜂毒はリューマチ、神経痛の効果があるとされ、世界中で活用されてきました。
蜂針療法(アピセラピー療法)として古くから行われていますが、
蜂毒の何が有効な成分なのかははっきりしていません。